28皿目 近所迷惑を考えよう

3/5
前へ
/248ページ
次へ
「どうしたんだよ」 「なあ、なんか、子どもの声聞こえねえ?」 「は?」  竜はまた由貴がふざけているのかと思い、眉を顰めて由貴に冷めた視線を向けたが、由貴は真剣な表情をして竜を見ていた。竜が由貴に何か言おうと口を開いた瞬間――……  かーってうれしい、はないちもんめ  まけーてくやしい、はないちもんめ  二人の耳に、はっきりとした子どもの歌声が聞こえてきた。男の子なのか女の子なのか、よくわからない不思議な声。一人というよりも複数の声が重なりあった歌声であった。  その歌声を聞いた瞬間、何故か二人の鼓動が早くなった。喉が渇く。  由貴と竜は目を見開いた後、ゆっくりと声のするほうへと振り向いた。  田んぼを挟んだ向かい側の道に、浴衣を着た二人の子供が手を繋いで由貴と竜の方を向いて立っていた。二人とも紺色の浴衣を着込み、足元は草履。顔には、祭りの帰りだろうか、狐のお面をつけていた。 「…………」  由貴と竜の二人は、その二人の子供から視線を外すことができず、まるで身体が動かなくなったかのようにその場に立ち梳くしていた。  二人の子供は、子供特有の高い声で笑うと、空いている右手と左手をゆっくりとあげて由貴と竜の後ろを指差した。  その後、何かヒソヒソ話をするように顔を近づけると、笑い声をあげて由貴と竜に顔を向け、また歌いながら歩き出した。  あのこがほしい、あのこじゃわからん  そうだんしよう、そうしよう  一陣の風が吹く。木の葉が揺れる。鈴が鳴る。  子供の姿と歌声が聞こえなくなると、由貴と竜はゆっくりと視線を合わした。 「ま、祭りの帰りかな。夜道で、あんな大きな声で歌うなんて近所迷惑もいいとこだよな」  由貴は頬を引きつらせて笑いながら、努めて明るい声を出した。  竜は視線を由貴から、あの二人の子供がいた場所へと戻した。じっとその場所を見たあと、口を開いた。
/248ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4384人が本棚に入れています
本棚に追加