4384人が本棚に入れています
本棚に追加
「……由貴、ここからあの場所までどれくらいある」
「え? どれくらいって、100メートルはねえと思うけど。まあ、5、60メートルくらいじゃねえ?」
「どんだけでかい声出してたんだよ、あのガキども」
「は? 何言って……」
由貴は竜の言葉の意味がわからず、笑いながら竜を見た瞬間、真剣な竜の横顔に由貴は何かに気が付いたように目を見開いた。
およそ5、60メートルほど離れた場所から、由貴と竜のいる場所まで声を届かせるとなれば、かなり声を張り上げなければならない。歌声など、おそらく所々掠れたように聞こえるだろう。小さな子どもであれば尚更である。
しかし、二人の耳には、はっきりと流れるように聞こえていた。歌声だけではない、小さな笑い声でさえも。
由貴は必死で笑顔を作り、唇を震わせながら口を開いた。
「いやいやいや! ねえって! それはねえよ!」
「何がねえんだよ」
「いや、まあ、色々と、だよ」
最初のコメントを投稿しよう!