28皿目 近所迷惑を考えよう

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 竜の言葉に由貴はたどたどしい言葉を返すと、黙り込んだ。  竜は由貴を見た後、ゆっくりと先ほど二人の子供が指差した方へと視線を向けた。二人の後ろには田んぼが広がり、その向こう側には周りを鬱蒼と生い茂る草木に囲まれた小さな池があった。  竜はじっとその池を見つめると、由貴を置いて池に向かって足を進め始めた。  田んぼと田んぼの間にある細い通路を進んでいく竜に気づくと、由貴は慌ててその後を追った。 「ちょ、おい! どこ行くんだよ、竜!」 「…………」  由貴の慌てた声に返事をすることなく、竜は黙ったまま足を前へと進める。池の近くにたどり着くと、竜は視界を遮る細い木の枝を左手で避けた。  右手に持っていた懐中電灯を、池を照らすように左右に動かす。ゆっくりと小さな円を描いた光が池の表面を移動する。  竜に追いついた由貴は竜の隣に立って、その様子をじっと眺めていた。ゴクリ、と唾を飲み込んだのは、由貴か竜か、それとも二人であったか。  懐中電灯から発せられる光の線がある一点で、止まる。 「……うそ、だろ……」  光の円が池の表面を照らす。その中心に浮かぶのは、子供の背中。ゆらゆらと揺れる水面から小さな後頭部が沈んでは、また出てくる。近くに浮かぶ、小さなスニーカー。  あのこがほしい、あのこじゃわからん  そうだんしよう、そうしよう
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