29皿目 だーれだ

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「由貴……清治さんに電話しろ」 「……え、あ、おう!」  竜は懐中電灯を池に向けたまま、淡々と言葉を発した。由貴は一瞬反応が遅れたが、すぐに返事を返すと、手に持っていた白猫のキーホルダーをポケットに入れて、代わり携帯電話を取り出した。  由貴は竜に背を向けると、慌てた様子で登録していた祖母の家の電話番号を表示させて、発信ボタンを親指で押した。  清治に連絡をとっている由貴を竜は振り返って一瞥した後、懐中電灯の光を左右に振り、辺りを見渡した。  ゆっくりと光の円が辺りの様子を浮かび上がらせる。  鬱蒼と生い茂る草木。底の見えない濁った池。落ちている小さなスニーカー。飛び跳ねる小さな蛙。 「…………」  竜はある一点で視線を止める。じっとその場所を見つめると、ゆっくりとした動作でそこへ近づき、しゃがみこんだ。右手に持っていた懐中電灯を左手に持ち直すと、その場所を照らした。  池の縁。池を囲むように生えている丈の長い草が不自然に折れている。まるで小さな子供が寝転がった大きさに。その周りには踏み荒らされた跡。 「竜、清治さんすぐ来るって!」 「…………」  由貴は竜の傍へ駆け寄るとしゃがみこんでいる竜の隣に立った。竜は右手で唇をいじりながら由貴に視線を向けると、右手を口元から外してゆっくりと立ち上がった。  由貴は竜が見ていた場所を見た後、竜に視線を向けた。
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