30皿目 かみついちゃうゾ

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 21:45。  暗闇の中、多くの足音が聞こえる。 「由貴君!!」 「あ、清治さん! こっちです!」  由貴は大きく手を振って場所を知らせる。清治は足元に気をつけながら、右手に持っている懐中電灯で由貴の声のするほうを照らした。清治の後ろからは村長や浜村省吾、そして数人の村の男達がついてきていた。  清治は由貴と竜の元へと駆け寄り、村長達は池の傍へと向かった。村長達は子供を視界に入れると一瞬黙り込み、その後誰が何を言うまでもなく、子供を引き揚げるための行動を開始した。  長い竿のようなものを子供が浮かんでいるところへと伸ばし、服に引っ掛けてゆっくりと岸まで引っ張る。ゆっくりと子供の背中が岸へと近づいてくる。子供が岸近くに引き寄せられると、省吾が腕を伸ばして子供を持ち上げた。 ザザアアア…  ボタボタと水分を含んだ服から水が落ちる。省吾は眉間に皺を寄せながら、ゆっくりとした動作で子供を地面に降ろすと、仰向けに寝かせた。  数本の懐中電灯に照らされた子供の顔は――――…… 「……誠太?」  由貴の声が静まり返ったその場に響く。  ぐったりと青ざめた顔で仰向けに寝かされているのは、壱也達の友人である水内誠太であった。  由貴や竜とはほとんど話したこともなく、卓也の後ろについて回っていた印象の薄い少年ではあったが、それでもほんの一日前に見た顔を忘れるはずもなく、由貴はまたもや見知った顔の子供の亡骸に顔を顰めた。
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