30皿目 かみついちゃうゾ

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 その二人の後を村の男達がぞろぞろとついていく。残された由貴、竜、そして清治はただその後ろ姿を見つめていた。清治は困ったような顔をして、村長達の後ろ姿とやや不機嫌そうに立っている竜を見た。  子供一人の死体が見つかったというのに、嫌にあっさりと片付いてしまったことに、戸惑いを隠せない由貴は短い黒髪を右手で掻き混ぜながら、深く息を吐き、竜へと視線を向けた。  竜は由貴と清治に背を向けて、じっと池の周りを眺めていた。 「……竜が自分から噛み付くなんてめずらしーんじゃねえの」  この怒りんぼさん、と由貴は揶揄するように竜に声をかけると、竜は緩慢な動作で由貴を振り返った。 「別に噛み付いてねえし」 「いやいやいや、そりゃ確かにほんとに噛み付いてはいませんよ? これはですね、所謂比喩表現というやつでしてね、本来の意味としては―――」 「うぜえ」  由貴がおかしな口調でぺらぺらと喋りだしたのを竜は一刀両断すると、溜息を一つついた。それを見ていた清治は苦笑いを浮かべる。  竜はまた池へと視線を向けると、口を開いた。 「何が狐様だ……明らかに人為的じゃねえか」 「え? どういうことだよ」  竜は不機嫌そうにそう言うと、聞き返してきた由貴に説明することもなく、足元の草を強く踏みしめるとその場を後にした。由貴が慌ててその後を追いかける。  残された清治は竜と由貴の背中を見つめた後、小さくため息をついて、ゆっくりと目を伏せた。 「藤嶋君は……ここに来るべきではなかったのかもしれないね」
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