31皿目 大人って汚い!

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 暗闇の中、虫の鳴き声が響く。  竜は左手をポケットに入れ、右手で持った懐中電灯で道を照らしながら無言のまま歩く。由貴は俯いてその後をぼんやりと歩きながら、前を歩く竜に視線を向けてはまた視線を下に戻していた。  不機嫌なオーラを纏った竜に由貴は困ったような表情を浮かべ、右手の人差し指で頬を掻いた。 「竜ー、どうしたんだよ。何イラついてんの?」 「どうもしてねえよ」  明らかに不機嫌な声を出している竜に由貴は苦笑いを浮かべた。 「うっそだね! ちょう不機嫌じゃん」 「うるせえ」  由貴は笑いながら竜の隣に並ぶと、延々と続く暗い道を見つめながら明るい声を出した。竜は由貴を見ることなく、気だるそうにただ前を見てゆっくりと足を進めた。 「…………」 「…………」  沈黙が続く。二人分の足音と、あちらこちらから聞こえる虫の鳴き声。  由貴のポケットの中で揺れるキーホルダーの鈴の音。  由貴は竜を一瞥すると、沈黙を裂いた。 「……なあ、竜。あれどういうことなんだよ、人為的ってやつ」  竜は前を向いていた視線を一度だけ由貴に向けると、また視線を前に戻して暫く黙り込んだ後、ゆっくりと口を開いた。  懐中電灯の光の円が一定の距離を保ったまま二人の前を進む。 「池の近くに踏み荒らされた跡と子供一人が寝転がったくらいの大きさに草が折れた場所があっただろ」 「え? あ、ああ。そういや、あったな」 「池周辺を見ても、あそこ以外は人が入った跡はねえ。折れた草が乾燥して枯れてねえってことは、多分あの場所はごく最近……それも今日太陽が沈んだ後、踏み荒らされたんだろうな」  竜は淡々と言葉を続ける。由貴はその言葉を一言も洩らさないように、ふざけることなく耳を澄ましていた。
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