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「母さんがすごく由貴君に会うことを楽しみにしてたよ。3日前から由貴君が来るんだって騒いで大変だったんだ」
穏やかに話す清治に由貴は、好感を持ちながら、自分の到着を楽しみに待っている祖母の話を聞いて、少し気が楽になったように笑った。
そうして由貴と清治が話していると、由貴が正面に何かを見つけた。
「あ、清治さん。あれってなんすか?」
「え? どれ? ああ……あれは、祭りに使う『やぐら』だよ」
由貴が身を乗り出して、前に見える木製の塔のようなものを指差すと清治がそれを見て答えた。窓の外を眺めていた竜も由貴の声に、正面を見た。
正面には、前にある草木で半分までしか見えないが、木で骨組みされた『やぐら』が建っていた。
初めて見るものに由貴と竜が興味津々といった様子で眺めているのを見て、清治は小さく笑う。
「あれは4日後にある狐良津祭りで使うものでね。よかったら二人も祭りに行ってみるといいよ。あまり大きいものではないけど、一応村一番のイベントだからね」
「孤良津祭り、かあ……」
由貴の父親の故郷である、狐良津陽伏仁村村、通称孤良津村では毎年7月29日、30日に村を挙げての一大イベントである、孤良津祭りが行われていた。
由貴は清治の話しを聞きながら、初めて見る父親の故郷に何か思うところがあるのか、ぼんやりとした表情で外を眺めていた。
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