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「それと、誠太が仰向けに寝かされたとき、服の襟元近くのボタンに草が引っかかってたんだよ」
「……それがなんで人為的ってことになんの?」
由貴の言葉に竜は足を止めると、由貴に視線を向けた。竜は由貴のティシャツの首元を右手で持っていた懐中電灯で照らした。
「こんなとこに草がつくってのはどういう状況だ」
「どういう状況って……まあ、寝転がったりしねえと無理なんじゃねえの?」
由貴は照らされた首元を見下ろした。
普段普通に生活していて首元近くのボタンに草が引っかかるということはまずない。あるとすれば草の上にうつ伏せに寝転がった場合であろう。
由貴の言葉に竜は腕を下ろすと、また前を向いて足を進め始めた。由貴は慌ててその後を追う。
「もし誠太自身が足を滑らせて池に落ちたんだったら、ああはならねえ」
「それじゃ……」
「多分……誠太は誰かに仰向けに倒されて、顔を池に沈められて、窒息死させられたってとこじゃねえの。『狐様』とやらの仕業ではねえことは確実だろ」
竜は言い終わると、じっと前を睨んだ。由貴は俯いて竜の言葉に考え込むように黙り込んだ。竜はそんな由貴を一瞥した後、口を開いた。
「村の奴らもあの跡を見たはずだし、誠太のボタンに草が引っかかっていたことも気が付いていたはずなんだよ……なのに、あいつらは鼻から『狐様の神隠し』だと決め付けてる」
気にくわねえ、と竜は苛々した様子で呟いた。
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