31皿目 大人って汚い!

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 他に対して基本的に無関心な竜ではあるが、子供が二人も死んでいるのになんの科学的根拠も無い、狐様の神隠しという言葉を盾に動こうとしない村の大人達に苛ついていた。  由貴は顔を上げて竜を見ると、眉を顰めながら右手で首元を掻きながら口を開いた。 「なんで村のおっさん達そんな見てみぬフリみたいなことやってんだよ。つか、村の人数も少ねえし、全員に話聞きゃ犯人も見つけられそうだけどな」 「だから見てみぬフリしてんだろ」 「は? どういうことだよ?」  竜は左手をポケットから出すと、目にかかる前髪をかき上げた。ふわりとブラウンの髪が揺れる。 「こんな小さな村で子供の連続殺人犯でも見つかってみろ、狐様の存在といい、メディアの注目を集めるに決まってる。村の人数が少ないからこそ、お互いに牽制しあってんだよ……このことは狐様のせいにして村の外に出すなってな」 「なんだよ、それ……」 「ま、本当のとこはどうかわかんねえけどな」  都心から離れた小さな村で起こった児童連続殺人事件。そうなればメディアが放って置くはずがない。狐様の伝説も合わせて、あること無いこと世間へと広められる可能性もないとは言えない。  由貴は竜の言葉に顔を顰めた。元々正直な性格の由貴にしてみれば、自分の身を守るためというような理由で殺人犯を見てみぬフリをするということに納得がいかないのであろう。  由貴は俯いて舌打ちをし、竜はただ前を睨んでいた。  ぼんやりと懐中電灯の光の円が二人の前で揺れる。  夜空にはいつの間にか重たい雲がかかり、昨夜まで輝いていた月や星達がすっかり隠れている。  いつもより暗くなった夜道に二人の足音が静かに響いていた。
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