32皿目 確かに食べましたけども

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 由貴は手を後ろにつくと、ぼんやりとテレビの画面を見た。  テレビの画面にはスーツ姿の中年の男性が竜や由貴のテンションと反比例するように、どんどん力を込めて熱心に話をしている。 「なあ、このアナウンサー、世界史の池内に似てねえ?」 「似てねえよ。つか、似てんの髪型だけだろ」 「えー、似てるって。謙虚な髪の生え具合とか超似てんじゃん。なかなかねえよ? この奇跡ともいえるバーコード具合。三年に一人の逸材だな」 「結構な頻度じゃねえか」  どうでもいい話をしながら由貴と竜はぼんやりとテレビを見ていた。部屋には二人の覇気のない声とテレビの音、雨が地面を激しく叩く音が響いていた。  そうして二人がテレビを見ていると、部屋の奥から隆子が居間へと入ってきた。手にはお盆を持ち、その上には三つの麦茶の入ったグラスといくつか饅頭の入った皿が乗っていた。 「由貴に藤嶋君、おやつでも食べないかい?」 「食う! ばあちゃん、ありがとー」 「ありがとうございます」  由貴はにんまりと隆子に笑いかけると、隆子は柔らかく微笑みながらちゃぶ台のそばに座り、二人の前にグラスと饅頭の入った皿を置いた。  由貴は嬉しそうに白く丸い饅頭を手に取ると、大きく口を開けて齧った。竜も一つ手に取ると、饅頭に口をつけた。隆子はそんな二人をにこにこと笑いながら二人を見ていた。
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