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「そんな……」
由貴は清治の肩を掴んでいた手を力なく離すと、俯いた。
激しく雨が傘を叩く音が響く。
呆然としている由貴の横へと竜は移動すると、清治に声をかけた。
「なんで俺らに伝えてくれなかったのかは、なんとなくわかるんで、もういいです」
「藤嶋君……」
清治は眉を下げて、悲しそうな表情を竜に向けた。竜は冷めた表情をしたまま続ける。
「……それで、裕斗はいつからいないんですか」
「裕斗君のお母さんの話じゃ、今朝、部屋を見に行ったときにはもういなかったらしいんだ……」
清治の話では裕斗の母親、寺林紗江子は29日の朝、裕斗に朝食を食べさせてから仕事に出かけたらしい。家に帰ってきたのは夜遅かったため、裕斗の姿を確認せずに寝てしまい、朝裕斗を起こしにいったときにはすでに裕斗の姿は部屋になかったということであった。父親の寺林和人は仕事のため今は家を空けていた。
清治から話を聞いた後、由貴と竜の二人は雨に濡れることを厭わず、清治から借りた懐中電灯を手に裕斗を探すため村中を走り回った。
神社に広場、卓也の見つかった森、誠太が見つかった池。
やむことの無い雨の中、二人は裕斗の名前を呼びながらひたすら裕斗の姿を探した。
――……裕斗君も、もしかしたら、もう……
清治が呟いた最悪な事態が由貴と竜の頭をよぎる。
「ハア、ハア……ちっくしょー……どこ行ったんだよ、裕斗……」
由貴は懐中電灯を持った左手の甲で額を拭った。
卓也や誠太の姿を裕斗に重ねてしまう。水を含んで重くなったズボンや服が動きを鈍くさせていた。
ポケットの中で裕斗に渡すはずだった白猫のキーホルダーが小さく音を奏でた。
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