34皿目 キレる若者

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 バシャバシャ、と雨の中走る足音。  懐中電灯から発せられる光が二つの線となり、夜道を照らす。激しく雨が道路や傘を打つ音が辺りに響いていた。  由貴は荒い息遣いで、必死に裕斗の名前を呼ぶ。 「裕斗ーー!! 居たら返事しろ!!」  足を止めて、必死に視線を巡らせた。雨の音が由貴の声を邪魔する。  視線の先には、鬱蒼と茂る草木に、激しい雨に打たれて首をもたげた向日葵。そのどれもが、夜の闇に取り込まれ、本来の鮮やかな色を失っていた。 「ちっくしょー……どこにいるんだよ、裕斗……」  いくら呼んでも返ってこない返事に、由貴は下唇を噛むと目を伏せた。  竜は由貴の後ろ姿を見た後、頬を伝う雨を、懐中電灯を握っている右手の甲で拭った。濡れた髪が首筋に張り付く。鬱陶しそうに頭を少しだけ振ると、それに伴って水分を吸って重たくなった髪が揺れた。  竜は懐中電灯を、傘を持っていた左手に移すと、左手をズボンのポケットに入れて携帯を取り出した。 「9時か……」  携帯のディスプレイに表示された時間に竜は、小さく息を吐いた。  清治達と別れて探し始めてから、およそ四時間が経過していた。その間休むこともなく、村中を駆け回っていた疲れが身体に出始めていた。  激しく振り続ける雨や、雨で緩んだ足元は思った以上に二人の体力を奪っていた。  竜は、少し水滴の付いた携帯を服で拭うと、ズボンの中へ仕舞った。 「……おい、どこ行くんだよ」  すでに先に足を進めている由貴に竜は、声をかけた。  由貴は足を止めると、竜を振り返る。 「まだ、この先調べてねえだろ」 「この先って……」  竜は由貴の向こう側に続く場所に視線を向けると、顔をしかめた。視線の先には、先が見えない闇の続く森。  入れば、おそらく右も左も分からなくなることは確実であろう。
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