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竜はため息をついて由貴を見ると、由貴の表情はいつものような余裕綽々なものではなく、明らかに焦りが見えていた。傘を持つ手に力が入っている。
「清治さん達の言葉に焦るのはわかるけど、これ以上俺らが先に進んでも迷うだけだろ」
「…………」
竜の言葉に由貴は視線を下に向けると、黙り込んでしまった。
裕斗の話を聞いてから清治達と別々に行動していた二人であったが、村中を駆け回っている間にもう一度清治達と会ったのだ。
そのとき、清治や村の男達は裕斗を探しておらず、すでに捜索を諦めて家に帰ろうとしていた。
由貴はその態度に、なんでもう諦めんだよ、と怒りを露にした。
しかし、卓也と誠太のこともあったため村の者達は、裕斗はすでに狐様に殺されていると決め付けていた。
「森に行けば、足元も危ない……それに、土砂崩れの心配もある。生きている可能性が低い子供一人のために、大勢の者が危険にさらされるのはな……」
一人の男の言葉に、由貴が――キレた。
「ふざけんなよ! 最っ低だな、アンタら!! 可能性が低いって、まだ……死んだって決まってねえだろ! どっかで一人で、怪我して泣いてるかもしれねえだろ!! なんとも思わねえのかよ!! ……もういい、さっさと帰れよ!」
「由貴君!」
由貴は村の男達を怒鳴りつけると、清治の止める声も振り払い、その場を去って行った。
竜は清治達を冷めた目で見た後、由貴の後を追いかけていった。
残された男達は、若い二人の後ろ姿を黙って見ていた。
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