34皿目 キレる若者

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 竜は、黙り込んだまま顔を上げない由貴をじっと見ていた。  雨が二人の傘を激しく打ちつける。 「……帰るぞ」 「……は? 何言ってんの……竜もアイツらと同じ考えなのかよ」  竜の言葉に、由貴は顔を上げると眉を顰めて不機嫌そうな表情を露にした。  鋭い目つきで睨んでくる由貴に竜は、一度目を伏せて溜息をつき、すぐに視線を由貴に戻した。 「ちげえよ……四時間も動き続けりゃ、体だって疲れてんだろ。こんな森に入って、俺らが迷って怪我でもしてみろ……裕斗が見つかったとき、アイツ……自分のせいだって責めるんじゃねえのかよ」 「……………」  竜の言葉に由貴は口を噤んだ。    竜は、右手に持っていた懐中電灯に視線を向けた。道に丸い光の円ができている。雨の線が光で映された。 「もしかしたら家に帰ってるかもしんねえし……とにかく道もわかんねえ上に、雨が最初より激しくなってる……これ以上進むのは危険だ。お前だってわかってんだろ」 「わかってる……」  由貴が小さな声で呟くと、竜は視線を由貴に向けた。  二人の間を沈黙が包む。  竜が踵を返してその場を去るのを由貴は見た後、ゆっくりとその後を追いかけた。  一度、足を止めて道の端に咲いていた向日葵を見た。 『由貴兄ちゃん、見て、向日葵。 僕、向日葵好きなんだ』  裕斗と関わったのは、たったの三日。  由貴は苦しそうに顔をしかめると、竜の後を追った。
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