35皿目 抱っこちゃん

2/7
前へ
/248ページ
次へ
 激しく雨が降る中、竜と由貴の二人は別段急ぐわけでもなく、ただ淡々とした足取りで由貴の祖母の家へと向かっていた。  普段うるさいくらいに喋る由貴は家につくまで一切口をきかず、ただ黙り込んでいた。  竜は少し後ろを歩く由貴を見たあと、小さくため息をつき、雨のせいで水気を含んだ前髪をかきあげた。 「由貴君……おかえり、早く着替えないとその格好じゃ風邪……」 「……すいません、タオル借ります」  家についた竜と由貴は玄関で濡れたズボンの裾を、家の中を汚さないように捲り上げると、タオルを借りるため、明るい光が漏れる居間へと足を進めた。  居間では、清治がちゃぶ台に頬杖をついて、ぼんやりとテレビを見ていた。  ちゃぶ台に置かれたお盆の上には、竜と由貴の分と思われる夕食の用意がラップをされて置かれていた。  清治は由貴と竜に気がつくと、頬から手を外して、やや気まずそうに由貴に声をかけた。由貴はいつものように明るく笑いながら返事をすることはなく、視線を下に向けたままポツリと小さな声で呟くと、居間の向こうにある洗面所へと入って行った。  その場に残された清治は、裕斗の探索を諦めて帰ってきたことを由貴はまだ怒っているのだろう、と視線を下げて、悲しそうな顔をした。竜は洗面所へと消えた由貴に背中を見たあと清治に視線を戻し、右手で襟足を撫でながら眉をひそめる。 「……そんな、気にしなくていいと思いますよ」 「……藤嶋くん?」  竜の言葉に清治は顔をあげると、居心地悪そうな顔をしている竜を見た。
/248ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4384人が本棚に入れています
本棚に追加