35皿目 抱っこちゃん

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「あいつだって、あれ以上は探す人間が危険だってことわかってると思うんで。それに、別に清治さん自身にムカついてるとか、そんなんじゃないと、思います。ほっとけばいつの間にか機嫌も戻ってますから」  単純なんで大丈夫ですよ、と言うと竜は少し口元を緩めて、沈んでいる清治に小さく笑いかけた。  清治は一瞬、竜の言葉に驚いたような顔をした後、眉を下げたまま竜に笑いかけた。 「ありがとう。藤嶋くんは優しいんだね」 「別に普通っすよ」  竜は清治の言葉に苦笑いをして返事を返すと、ちゃぶ台の上に置かれている夕食に視線を落とし、指を刺した。 「これ、二階で食ってもいいですか? 終わったら戻しとくんで」 「あ、ああ。いいよ、冷めちゃったけど。温めなおそうか?」  竜は清治の言葉に、大丈夫ですと答えると、居間に足を進めてちゃぶ台の上に置かれたお盆を両手に持った。居間を出て行く竜の後ろ姿を清治は見たあと、柔らかく微笑んだ。 「ありがとう、藤嶋くん……」  ぎしぎしと鳴る木造の階段を上り、部屋へと向かった竜は両手で持っていたお盆を左手と体で支えつつ、右手で部屋の扉を開けた。  電気のついていない部屋は暗く、竜は片手と体でお盆を支えたまま電気をつけた。カチカチと何度か電気がついたり切れたりした後、明るい光を放ちだしたのを確認すると、竜はお盆を部屋においてあった机に置いた。 「気持ち悪……」  竜は雨で濡れて体にくっつく服を指で引っ張ると、顔をしかめて、服を脱いだ。  脱いだティシャツを手に持ったまま、ふと窓の外へ視線を向けると、風も強く吹いていたためか、雨が窓ガラスに激しく打ち付けていた。  透明なガラスが黒く染まり、延々と止まることなく雨の粒が浮かんでは消えているのを竜はじっと見ていた。
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