35皿目 抱っこちゃん

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「そんな格好でいたら風邪引くよー」  ふと、後ろから声がして振り返ると、洗面所から戻ってきた由貴が扉を開けて部屋に入ってきていた。肩にバスタオルをかけ、右手にもう一枚バスタオルを持っていた。  由貴は手に持っていたバスタオルを竜へと投げると、竜はそれに手を伸ばして受け取る。竜は受け取ったバスタオルで濡れていた体や髪をがしがしと乱暴に拭きながら、床に座り込んで不機嫌そうな顔をした由貴を見た。  いつものへらへらした顔ではなく、唇を尖らせて眉をひそめている由貴に竜はため息をつくと、近くに腰を下ろした。 「何ふてくされてんだよ」 「……ふてくされてねえし」  裕斗のことが心配なのに、探しに行けないもどかしさに明らかに不機嫌そうにしている由貴に竜はやれやれと、肩をすくめて机の上に置いておいたお盆へと手を伸ばした。お盆の上に置かれている皿にかかっているラップを取る。  由貴は、人のことを気にせずに自分だけさっさと遅い夕食に手をつけている竜をじっと見ていた。竜はお箸を持つと、やや麺が伸びて冷めた焼きそばを持ち上げて、口に入れた。 「……なんで竜そんな平然としてんの」 「なにが」 「なにが、って……裕斗がいなくなったんだぜ? もうちょっと、こうシリアスになんねえの?」  竜は普段食が細い割りに流石に空腹だったのか、一口二口と焼きそばを口に入れながら横目で由貴を見た。  由貴は竜の態度に納得いかないような顔をして、胡坐をかいていた足に手をついて、竜を睨んだ。  竜は別に由貴の睨みなど、まったく気にしていない様子で平然としながら、お箸をおいて麦茶の入ったグラスを持って、口に運んだ。
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