36皿目 もう離さない!

3/6
前へ
/248ページ
次へ
「どうするんだよ」 「もちろん探す」 「言うと思った」  はっきりと迷いなく答えた由貴に竜はやれやれと肩をすくめると、足を進めて由貴を追い越した。由貴はそんな竜の様子を不思議そうな表情を浮かべて見ていた。  竜は腰をかがめると、手を伸ばして足元にあった大きめの石を手に取った。 「何やってんの?」 「こうやっとけば、どの道を通ったかわかるだろ」  竜は近くの木の幹に持っていた石で傷をつけると、由貴を振り返った。由貴は竜の行動に一瞬きょとんとしたが、すぐに頬を緩めて笑った。 「あったまいー」 「とっとと行くぞ」 「おー」  13:00。 「…………」  竜は後ろを振り返って黙り込んでいる由貴を見ると、溜息をついた。もう一度前を向くと、自分が幹につけた傷をたどって道を進んでいく。 「飯も食ってねえし、一度休んだほうがいいだろ」 「…………」 「シカトしてんじゃねえよ」  由貴は竜の言葉に返事を返さず、ふてくされたような顔をして竜の後をついて行った。  由貴と竜の二人は森の中で裕斗を探していたが、昨日の大雨のせいで足元は不安定で、森の奥へ進んでいくことは極めて困難であった。  しかも、大雨のせいで途中の道が土砂崩れで潰れていた。危険なためその場を離れた方がいいのだが、もしかしてその土砂崩れに裕斗が巻き込まれているのでは、と考えるとその場から中々動くことができなかった。  そうして、数時間森の中を歩いていたのだが、さすがに朝食と昼食を抜いてこのまま進むことは体力的に難しいと考えた竜が引き返すことを提案したのだ。  竜は幹につけた傷を探しながら足を進めると、欠伸をかみ殺した。朝が早かったことと、昨日の疲れが取れていないのか竜の目は、ややうつろになっていた。  竜の後ろをついて行っていた由貴は、後ろを振り返って森の奥を見つめた後、また前へと足を進めていった。  森の中は昼とは言え、鬱蒼と茂る木のせいで光が入りにくく、薄暗くなっている。森の木々がざわざわと揺れた。天気は快晴。  風は、吹いていなかった。
/248ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4384人が本棚に入れています
本棚に追加