36皿目 もう離さない!

4/6
前へ
/248ページ
次へ
「あつ……」  森を出ると一気に目の中に光が射し込み、身体へと照りつけてくる。  竜はその光に眩しそうに目を細めると、かぶっていた黒のキャップを外した。右手で前髪をかきあげて、帽子をかぶりなおす。由貴は視線を下に向けたまま、黙り込んでいた。  竜は落ち込んでいるのか、ふてくされているのかわからない由貴を一瞥した後、由貴を気にすることなく、すたすたと足を進めていった。  竜と由貴は黙ったまま、一度休憩しに戻るため斎藤の家へと足を進めていた。  その時、丁度二人は広場の傍を通った。広場では祭りの片づけが行われていた。その中には、昨夜裕斗を探していた村の男達もいた。  由貴が裕斗の探索よりも、祭りの片づけを優先している村の大人達に眉をひそめていると、広場から二人へ幼い声がかけられた。 「由貴兄ちゃーん! 竜兄ちゃーん! そんなとこで何やってるのー?」 「いっしょにお祭りのかたづけしようよー」  声がしたほうへと視線を向けると、そこには広場のフェンスにしがみつくようにして、由貴と竜に大きく手を振っている壱也、隆史、紀美子、亜矢の四人がいた。由貴は四人を視界に入れると、笑いかけた。 「あー……ちょっと、まだメシも食ってないし……今日は手伝ってやれないんだ」 「おべんとうならいっぱいあるよー。由貴兄ちゃんと竜兄ちゃんがいないとつまんないよー!」  大人達は片付けで忙しく、相手にしてくれなくてつまらないのか四人の子供達は、由貴と竜になんとか広場に来てもらおうと二人を呼ぶ。由貴は困ったように笑うと、右手で髪をかいた。  すると、由貴の隣で両手をポケットに入れてその様子を見ていた竜が、広場の入り口へと移動し始めた。
/248ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4384人が本棚に入れています
本棚に追加