37皿目 キスより抱きしめて

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「ふー……食った食った」  広場に立てられていたテントの中で由貴と竜は昼食をとると、影になっているテントの下で早朝から酷使していた身体を休めていた。  由貴は右手に持ったペットボトルに口をつけて、勢いよくお茶を喉に流し込むと、息をついた。 「つか、竜ちゃん。食って寝たら牛になっちゃうよーモウモウー」 「……うるせえ、黙れ」  由貴から少し離れたところで、早起きのせいで引き起こされた眠気が限界を超えたのか、竜は服が汚れるのも構わずに広場の芝生の上で横になっていた。顔の上には、被っていた黒のキャップを置いて、寝顔を見えないようにしていた。  不機嫌そうな声を出した竜に由貴は苦笑いを浮かべると、視線を広場の中心へと向けた。  広場の中心では、壱也達が小さな身体ながらも手伝いをしようと必死になって軽めの木材などを運んでいた。 「しんどー……」  さすがに疲労を感じ始めていた由貴は、ふわあ、と欠伸を一つすると、視線をもう一度竜に戻した。  キャップで顔は見えないが、規則的に上下する胸板から竜が夢の世界へと旅立ったことがわかった。由貴は小さく笑うと、立ち上がって手に持っていた弁当のゴミと空になったペットボトルを近くのゴミ箱に捨てた。 「由貴兄ちゃーん! 早く早くー!」 「おー、今行くわ」  広場の中心から元気よく手を振ってくる壱也に由貴は手を振り返すと、一度手を前に伸ばして背伸びをして、その場を離れた。竜はすっかり寝入ってしまったのか、由貴がいなくなったことに気付いて起きる様子もなく、ピクリとも動かずに寝転がっていた。
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