37皿目 キスより抱きしめて

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「ん…………」 「!!」  竜が目を覚ましたと思った奈緒は慌てて、顔を後ろに顔を引いた。  しかし、竜は寝ぼけているのか、ぼんやりとした目で奈緒を見つめた後、ゆっくりと右手をあげて、奈緒の首元に手を当てて引き寄せた。奈緒の髪が竜の指に絡まる。 「りゅ、竜様!?」  奈緒はまさかの展開に一気に顔を赤らめると、竜に引き寄せられるがままに身体を屈めた。ぎゅうっと目を瞑って、少し唇を尖らせる。  しかし、奈緒の期待は外れた。竜は奈緒の首筋に顔を埋めて深く呼吸をすると、何かを呟いた。 「……つ…き……」 「え? つき? すき、じゃなくて?」  奈緒は急接近してきた竜に心臓を激しく走らせながら、竜の呟いた言葉を不思議そうに口にした。すると、さすがに耳元近くで声がしたことで竜も目が覚めたのか、先ほどとは変わって、パチリと目を開くと一瞬今の状況が理解できずに混乱していた。  しかし、すぐに自分の上にかぶさっているのが、黒のキャップではなく女だと気付くと、首元に置いていた手を肩に移動させて、勢いよく押し返した。 「な、何やってんだよ、お前!!」 「何って、竜様からあたしを引き寄せたんじゃないですかあ」  竜は身体を起すと、後ろに下がって奈緒から距離を取って鋭い視線を奈緒に向けた。  奈緒は両手に黒のキャップを持ったまま、甘えたような声を出しながら上目遣いで竜は見た。竜はその様子に口元を引き攣らせると、手を伸ばして奈緒から黒のキャップを奪い返した。 「引き寄せてねえよ!」 「引き寄せましたあ! こう優しく首元に手を置いて、ゆっくりあたしを引き寄せて……首元に顔を埋めてたんですから! 竜様ってなんだかいい匂いがするんですねえ……あたしったらついうっとりなっちゃいました」
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