37皿目 キスより抱きしめて

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 奈緒の言葉に竜は舌打ちをした。自分の失態が悔しいのだろう。奈緒はそんな竜を見つめたまま、両手をついて竜に近づくと、上目遣いで竜を見上げた。 「あの、竜様『つき』ってなんですかあ? すき、の間違いですよね? あたしを想うあまりについこぼしちゃったんですよね? もう、やだ、竜様ったら照れ屋なんだからあー!」  竜は奈緒の言葉に一瞬理解できなかったのか、不思議そうな表情を浮かべた後、「つき」という単語に何か思い当たることがあったのか驚いたように目を見開いた。奈緒も竜の表情の変化に気が付いたのか、首を傾げて竜の顔を覗き込む。 「どうしたんですかあ、竜様?」 「……何でもねえよ」  竜は奈緒から顔を逸らして、立ち上がった。奈緒は座りこんだまま竜を見上げるが、その表情はわからない。  竜は右手でもった黒のキャップを頭に被り直した。服についた草を手で払う。 「竜様? 「つき」って……」 「なんでもねえっつってんだろ」  奈緒の言葉に竜は冷たく返事をすると、奈緒に背を向けてその場を離れようとした。奈緒が竜を引きとめようと、その手を伸ばした瞬間。 「竜さ」 「キャアアアアアーーーー!」 「え……何?」  広場に女性の悲鳴が響き渡った。  突然の悲鳴に奈緒は驚いたように目を丸くすると、辺りをきょろきょろと見渡した。  奈緒の前に立っていた竜は声が聞こえてきた方へ視線を向けると、走り出した。  向かう先は……。  
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