38皿目 かわいいこ

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 なんとか一番前へと出ると、プレハブ倉庫の前には口元を押さえてしゃがみ込んでいる女性が一人。どうやらこの女性が先ほどの悲鳴の主らしい。女性は顔を真っ青にして、小さく震えていた。  由貴はその女性から視線をプレハブの中へと移す。  ゆっくりとプレハブの入り口へと足を進めていく。そっと手を半開きの扉へと置いて、中へと足を入れた。ごくり、と唾を飲み込む。  由貴が扉を開けていくと、真っ暗な倉庫の中に太陽の光が射し込んでいく。  扉を開けていくにつれて徐々に太くなっていく光の線が由貴の足元から伸びる。  暗くて見え難かったプレハブ倉庫の中がはっきりとしてくる。何故か速まる鼓動。  彷徨っていた視線がある一点で止まった。息を飲む。 「う、そだろ……」  由貴は視界に入ってきた光景に愕然とした。 「おい、由貴」  プレハブ倉庫の中で突っ立っている由貴の後ろから竜が声をかけた。竜は何の反応も返さない由貴に眉を顰めながら、由貴の肩に手を置いてその隣に立つ。 「何やってんだよ」 「竜……あれ……」  由貴はゆっくりと竜の方へ視線を移すと、震える手である場所を指差した。  ゆっくりと持ち上がる由貴の手を視線で追いながら、竜は由貴が指差す場所へと視線を移した。  その光景を視界に入れた瞬間、竜は目を見開いた。
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