38皿目 かわいいこ

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「……裕斗……?」  竜と由貴の視線の先には、小さな身体があった。  プレハブ倉庫の隅に壁にもたれかかるようにして、小さな身体を丸めて。少し乱れた色素の薄い髪が顔にかかって、表情は見えない。ぴくりとも動かず、まるで人形のようにその場にあった。生まれたままの姿で。  裕斗は身体に何も身に付けていなかったのだ。  由貴は一歩、また一歩と裕斗のいる場所へと足を進める。竜はその場に立ったまま、由貴の様子を見ていた。 「おい、裕斗……こんなとこで、何やってんだよ……服、どうしたんだよ……」  震える声で裕斗に話しかけながら近づく。  恐る恐る手を伸ばして、小さなむき出しの肩に触れた。その肩はひんやりと冷たく、由貴はその感触に顔を歪めた。 「なあ、裕斗……どうし、たんだよ……」  由貴は躊躇することなく、その小さな身体に腕を回すと自分の方へと引き寄せた。小さな頭がことん、と由貴の胸元にもたれかかる。目を瞑ったまま、青白くなった表情が見えた。 「うそ、だろ……なあ、おきろって……」  冷たくなった小さな身体をぎゅうっと抱きしめるが、反応を返すことはなかった。  由貴の肩が小さく震える。竜はその光景を見たあと、眉間に皺を寄せて目を伏せた。 『由貴様は……この村の人?』 『由貴兄ちゃん』  人見知りで、笑顔が可愛くて、素直。由貴を兄のように慕って、その後をついて回っていた。 「ゆう、と……なんでだよ……」  プレハブの中には由貴の震えた声と嗚咽だけが響いていた。
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