39皿目 取り調べドラゴン

4/5
前へ
/248ページ
次へ
「よかったら何があったのか、ゆっくりでいいんで教えて欲しいんですけど」 「あ、はい……」  女性は竜の真剣な眼差しに一瞬頬を染めたあと、俯いて話し始めた。胸辺りで握っている手はまだ少し動揺を表すように震えていた。 「村長に頼まれて、テントを仕舞うためにプレハブ倉庫を開けるように言われて……それで村長から渡された鍵で扉を開けて……それで、その、奥に何かが見えて、近づいたら……」  そのときの光景を思い出したのか、女性は手を口元にあてて黙り込んでしまった。竜は親指を口元に当てながら、その様子を見たあと、口元にあてていた手を下ろした。 「もう、いいです。すみませんでした」 「いえ……」  竜は少し潤んだ瞳で見上げてくる女性をまったく気にした様子もなく、視線を周囲に向けると、少し離れた場所にいる浜村省吾を見つけた。省吾は眉を顰めたまま、じっと裕斗がいたプレハブ倉庫を見ている。 「……浜村さん、ちょっといいすか?」 「え、ああ。藤嶋くんか」  省吾は竜に話しかけられると、一瞬、驚いたような顔をしたあと、苦笑いを浮かべた。竜はその様子を見ながら、ゆっくりと口を開く。 「村長はどうしたんですか。あのジイサンまっさきに駆け寄ってきそうなのに」 「ああ……村長ならさっきうちの美里の車で清治くんの後を追いかけていったよ」 「そうですか……」  竜は何かを考えるように目を伏せたあと、またゆっくりと瞼を上げて、省吾を真正面から見た。 「一つ聞きたいことがあるんですけど」 「なにかな?」 「あのプレハブの鍵って、祭りの間は開いてたんですか」 「祭りの間? いや、プレハブの鍵は閉まってたよ。鍵は村長が持っていてね、準備と片付けのとき以外開けないんだ……ああ、懐中電灯を取るために二回ほど開けてたかな」
/248ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4384人が本棚に入れています
本棚に追加