40皿目 人妻とティシャツ

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 それから裕斗の死が受け止められない紗江子を気遣って清治と由貴が残り、村長と美里は広場へと帰っていった。  美里は去年同じように最愛の息子を失った経験からか、辛そうに顔を歪めて帰るまで紗江子を気遣っていた。 「由貴くん……」 「え、あ、はい」  家の中に入った由貴がソファに座ってぼんやりと下を向いてると、泣いて目を赤くした紗江子が由貴に声をかけてきた。紗江子は無理に笑みをつくると、由貴にティシャツを差し出した。 「これ、夫のものなんだけど。よかったら……裕斗に服、かけてくれたでしょう……」 「いえ、」  由貴はそのティシャツを受け取ると、眉を下げて笑った。手の中にあるティシャツは紺色の落ち着いたデザインのもので。由貴はそれを広げて、頭から被って腕を通した。  少し由貴の身体より大きめのサイズ。似合いますか?と言って笑う由貴に紗江子は口元を緩めると、由貴の近くに座った。 「由貴くんのことは裕斗から聞いてたわ……この村に来てから初めてってくらい、すごく、楽しそうに笑って、由貴くんのこと話してたから、あの子……」 「……そうっすか」  紗江子はまた顔を両手で覆うと俯いて肩を震わせた。由貴はその様子を見た後、視線を下げた。二人の様子を見ていた清治は眉を下げて辛そうな表情を浮かべていた。
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