40皿目 人妻とティシャツ

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「ただいま」  家についた清治と由貴は車から出ると、玄関の扉の前へと足を進めて扉を開けた。清治が帰ったことを知らせると、居間から隆子が顔を出した。 「ああ、清治に由貴、おかえり」 「ただいま、ばあちゃん」  清治と由貴の二人は靴を脱いで家の中へとあがると、廊下を歩いて居間へと向かった。居間には隆子一人がちゃぶ台の傍に座って、お茶を飲みながらテレビを見ていた。テレビの画面には明日の天気予報。明日は晴れらしい。  由貴は隆子に声をかけてから、きょろきょろと辺りを見渡した。 「ばあちゃん、竜は?」 「藤嶋くんなら二階にいるよ。片付けで随分疲れたみたいでね」 「あ、そっか……」  由貴は竜を祭りの片づけをしていた広場に置いてきていたこと思い出すと、ぐったりと部屋で倒れている竜を思い浮かべて少しだけ笑った。 「晩ご飯の用意ができたら呼ぶから、由貴くんもそれまで休んでおいで」 「そうしときます」  清治の言葉に由貴は頷くと、居間を出て階段へと向かった。  少し薄暗い廊下にギシギシと床が軋む音が響く。その音以外に小さく鈴が鳴る音がして、由貴は自分のズボンのポケットに手をつっこむとその中に入っていた白猫のキーホルダーを取り出した。  階段を上がりながら、右手に持ったキーホルダーを見つめる。 「結局、渡せなかったなー……」  チリン、と寂しげな音を奏でるキーホルダーをそっと優しく右手で包むと由貴はその手を悲しげに見つめた。
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