42皿目 今夜は帰さない

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 8月1日。  まだ空には太陽が昇りきっていない時間。 「んー……だよ……チックショー!!」  ドスッ!! 「――っ!!」  勢いよく降りてきた由貴の右手が竜の鳩尾に綺麗にきまった。  二度目の早朝の襲撃に竜は少し涙目になりながら鳩尾を押さえて咳き込むと、むにゃむにゃと口を動かして呑気に寝ている由貴を射殺さんばかりに睨みつけた。  間に扇風機を置いて並んで寝ていたのに、由貴の身体はいつの間にか斜めになって竜の方へと転がってきていた。  竜はじわじわと痛む鳩尾に右手を置いておさえながら、ゆっくりと上半身を起すと呑気に寝ている由貴の太もも辺りを思いっきり足で蹴った。 「いってええ! ええ……ええ……う……」 「……なんで起きねえんだよ」  太ももを蹴られた痛みに一瞬大きな声をあげたかと思うと、由貴はまた布団に顔を押し付けて寝息を立て始めた。竜はその様子を呆れたように見た後、盛大にあちこちに跳ねた寝癖だらけの髪を右手でかき混ぜて欠伸をした。 「……6時」  近くに置いてあった携帯に手を伸ばして携帯を開くと、携帯の画面にはアナログの時計の針が一直線になっていた。竜は携帯を布団の上に投げた後、ぼんやりと網戸になっている窓を見つめた。 「……起きるか……」  二度寝できそうにないと確信すると、竜は起き上がった。
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