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「なんだよ」
「前みたいにさ、こう、ピーン! とこねえの? 真実はだいだいいつも一つ! 場合によっては二つ! みたいな」
「そんなセリフ言った覚えねえし」
竜は由貴の言葉に呆れたような表情を浮かべて返事を返すと、由貴はごろんと横に寝転がってバタバタと子供が駄々をこねるように手足を動かした。
「やだやだやだー! こんなモヤモヤしたまんまじゃ帰れないー! 今日は帰りたくないのー! あたしを帰さないでー!」
「気色悪い」
「いてええ!」
バシン、と由貴の額を竜は叩いて立ち上がった。由貴は叩かれて少し赤くなった額を右手で押さえながら立ち上がった竜を見上げる。
「……竜って、この角度から見ても男前ね。よ、日本一! 抱かれたい男ナンバーワン! キャー、フキゲン王子ー!」
「…………」
竜は由貴を蔑んだ目で見下ろした後、部屋を出て行った。残された由貴は溜息をつきながら両手足を伸ばして大の字になると、眉を顰めた。
「ぬー……褒めても無駄か」
天井をじっと見つめた後、上半身を起してぼんやりと竜が出て行った部屋の扉を見つめた。
「竜はこんな中途半端なままで帰ってもいいのかよ…………まあ、めんどくせー、か」
理解できない村の狐様への信仰。『よそ者』扱いされて話さえ聞いてもらえない。わからないことだらけの事件。
竜にしてみればめんどくさいことこの上ないのだろう。由貴はそう考えると、溜息をついて右手で髪をかき混ぜた。
開け放った窓の外から煩いほどの蝉の鳴き声が静かになった部屋に響き渡った。
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