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13:55。
ガタガタと音を鳴らして大きな車体がバス停に止まる。
「それじゃあ、色々とお世話になりました」
「あ、うん。気をつけてね」
バス停まで見送りに来た清治と隆子に由貴は肩に鞄を掛けなおした後、そう言ってにんまりとした笑顔を向けた。隆子は寂しそうな表情を浮かべて由貴を見て、清治は柔らかい笑みを浮かべて返事を返した。
先にバスに乗り込んだ由貴の後に続いて竜もバスの中に入る時、足を止めて清治と隆子に小さく頭を下げた。
「ありがとうございました」
「ううん……気をつけて」
清治はそう言ってにこりと笑うと、竜もそれに返すように少しだけ口元を上げて笑ってバスの中へと乗り込んだ。バスのドアが閉まる音がその場に響く。
バスの中には由貴と竜以外の乗客はおらず、由貴は窓を開けて身体を乗り出すと隆子と清治に手を振った。
「また遊びに来るから!」
「ああ、待ってるよ」
隆子は悲しそうな表情を浮かべたままそう言って由貴に手を振り返した。
バスが大きな車体を安定の悪い道に揺らしながらバス停を離れる。竜は由貴の後ろの席に座って振り返ると、小さくなっていく隆子と清治の姿をぼんやりと見ていた。
二人の姿が見えなくなると、由貴は前を向いて座り直した。竜は視線を窓の外から由貴へと向ける。
「なんか、楽しかったけど……」
「……………」
「なんだかなー……」
由貴の少し沈んだ声が車内に響く。竜は視線を由貴から窓の外へと戻すと、ぼんやりと過ぎ去る風景を眺めた。
空は真っ青に澄んで、白い雲がいくつか浮かんでいた。延々と続く風景は変わりばえがなく、青々とした田んぼと森の木々が視界に入ってきていた。開けたままの窓から幾重にも重なった蝉の鳴き声が聞こえていた。
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