43皿目 小銭の使い道

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「それでは、東京までの片道二人分、16,950円になります」  駅員の言葉に由貴はいそいそと財布を出して、二万円を駅員に差し出した。駅員は手渡された二万円を受け取ると、電卓を叩いておつりと切符を由貴に差し出した。由貴はおつりと切符を受け取って、振り返って竜に切符を渡す。 「ほい、切符。小銭は鬱陶しいから9,000円でいいよ」 「高くなってんじゃねえかよ」 「ケチー。そのくらい由貴ちゃんに寄付しようって気持ちはねえのかよー」 「うるせえ」  竜は切符を受け取って鞄のポケットに入れると、財布を取り出して由貴に8,500円を渡した。 「あれ? ちょっと多くね?」 「細かいのねえから」 「お、臨時収入。ラッキー」  由貴は竜に手渡された8,475円と臨時収入の25円を握ってなぜか嬉しそうに笑い、竜はそれを呆れた表情で見ていた。由貴は手元から竜に視線を移して、笑った。 「なあ、改札出る前に売店寄ってかねえ?」 「いいけど、さっさとしろよ」 「了解でーす」  発車時刻まであと20分。  由貴と竜の二人は駅の中にある売店へと足を進めた。売店には人の良さそうな40代後半の女が立っていた。由貴は少し腰をかがめて陳列棚に並べられたお菓子を見渡す。その中にあった一つのお菓子が目にとまる。 「これ、壱也の親父さんがくれたやつじゃん……」 「…………」  由貴はチョコレート菓子を手に取ると、袋をじっと見つめた。祭りの準備の日、弁当を食べ終えて物足りないと言っていた由貴に壱也の父親が手渡したものである。由貴の父親の英治が好きだったもの。そして、裕斗と一緒に笑いあって食べたもの。  隣に立っていた竜は、眉をひそめてじっとそのチョコレート菓子を見ている由貴を見たあと、視線を逸らして口を開いた。
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