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「……とっとと選べよ。5時に間に合わねえだろ」
「え、あ、ごめんごめん」
由貴は竜の声にハッとすると、少しぎこちなく笑いながら竜に謝った。由貴がそのチョコレート菓子をレジにいる女に差し出そうとしたとき、二人の会話を聞いていたらしいレジの女が二人に話しかけた。
「ちょっと、あんた達」
「へ? なんすか?」
「5時って、東京行きの電車に乗るのかい?」
「あ、はい。そうっすけど」
由貴は不思議そうな表情を浮かべながら頷くと、その女は差し出されたチョコレート菓子の袋を手に取りながら、口を開いた。
「東京行きのその時間の電車は、確か今日、人身事故か何かで到着が遅れるらしいわよ」
「え、マジですか?」
由貴と竜はその言葉に驚いたような表情を浮かべると、一度顔を見合わせた。由貴の隣に立っていた竜がその女に視線を向けると、口を開いた。
「遅れるって、いつになるんですか」
「確か6時くらいになるって、駅員さんが言ってたねえ」
「そうですか……」
竜がそう言って視線を逸らすと、その女は由貴が渡したチョコレート菓子のバーコードに機械を当てながら、やれやれといった表情を浮かべた。
「最近、事故が多いのかなんなのかわからないけど、こうやって時間が遅れることがよくあるんだよ。4日前にも同じようなことがあってねえ、その時もあんたたちと同じように知らなかった人が困っててね……まったくどうなってるんだか……はい、189円ね」
「あ、はい」
由貴は財布の中からさっき竜から余分にもらった25円を使って、ぴったり189円を女に差し出した。女は由貴から代金を貰うのと引き換えに、ビニール袋に入れた商品を差し出した。女の話を聞いていた竜が口を開いた。
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