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「なんだか、あの二人がいないと静かだねえ……」
「……そうだね」
テレビの音が居間に響いていた。居間の中央に置かれたちゃぶ台のそばに座っている隆子は視線を巡らせたあと、ポツリと呟いた。向かい側に座っていた清治は手に持っていたグラスに口をつけて麦茶を一口飲んだ後、ゆっくりと頷いた。
『うめー!! この煮物すっげえうまいよ!!』
『いちいち叫ぶな』
一週間の間、居間に響いていた由貴の明るい声とそれにつっこむ冷めた竜の声。それがまったくなくなると、元の生活に戻っただけのはずなのに隆子と清治はやけに寂しく感じていた。
「清治、今日祭りの打ち上げがあるんじゃなかったかい? 私のことはいいから行って来なさい」
「……そう?」
「ああ。どうせ村の若い衆に来るように誘われてるんだろう」
隆子の少し呆れたような声に清治は苦笑いを浮かべると、視線を何気なくつけていたバラエティ番組に向けた。由貴が最近気に入っている芸人が他のベテラン芸人達につっこまれて少し困った顔をしていた。
「……母さん、なんだか、この一週間で由貴と藤嶋くんが居ることが当たり前みたいになってたね……」
「そうだねえ……今日もじゃれあいながら帰ってくるような気がして」
「ただいまー!! 清治さーん! ばあちゃーん! 鍵開けてー!」
「叫ぶな」
「そうそう、こんな風に…………え?」
突然聞こえてきたやけに懐かしく感じる声と玄関のドアを叩く音。隆子と清治は目を丸くさせた後、一度顔を見合わせてから立ち上がると、玄関へと足を進めた。
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