45皿目 耳をすませば

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 それから二人が使っていた二階の部屋に荷物を置くと、由貴と竜は一階の居間へと向かった。  居間には由貴と竜の分の麦茶を入れている隆子とちゃぶ台の傍に座っている清治がいた。由貴と竜の二人は清治の近くに座ると、テレビから二人へと視線を向けた清治に話しかけた。 「清治さん、今日祭りの打ち上げがあるって省吾さんに聞いたんすけど、行かないんですか?」 「ああ、丁度今から出かけるところだったんだよ。二人も一緒に行くかい?」 「マジっすか! 行きたいです!」  清治の返事に由貴は嬉しそうに笑いながら大きく首を縦に振った。清治はその様子を見て、柔らかく笑った。  由貴の隣に座って隆子から手渡されたグラスに口をつけて麦茶を飲んでいた竜はそのやり取りを一瞥した後、つけっぱなしのテレビへと視線を向けた。テレビの画面には最近売れてきた若手芸人が関西弁で漫才をしている。竜は面白くもなんともない、といった表情でぼんやりとそれを眺めた。 「ばあちゃん、ホントに留守番でいいんかな?」 「ああ、母さんは人が多いところが苦手でね」 「そうなんだ……」  由貴は清治の青い車の助手席に乗ってシートベルトをしながら、玄関に立ってこちらを見送っている隆子を振り返って見て、ポツリとそう呟くと運転席に座ってエンジンキーに手をかけた清治が苦笑いを浮かべながら返事を返した。  由貴は視線を前に戻すと、シートに深く腰をかけてもたれてバックミラー越しに後部座席に座っている竜を見た。竜はシートに浅く腰をかけて、背もたれにもたれながら窓の外を見ていた。
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