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外灯も無い場所を車のライトだけが暗闇を照らす。ガタガタと揺れる車内で由貴は手の中にある白猫のキーホルダーを握り締め、竜はぼんやりと初めて来た場所を眺めていた。
車が一件の家の前で止まった。
暗い森の中でポツリと立っている家はどこか寂しげな雰囲気を纏っていた。一階のリビング辺りについている明りがやけに目立っていた。
「じゃあ、ここで待ってるから」
「あ、はい。行ってきます」
清治の言葉に由貴は顔を上げて笑うと、シートベルトを外して車の中から出た。そのとき、後部座席に座っている竜と目を合わせると、小さく頷いて車のドアを閉めた。
竜は車から離れていく由貴の後ろ姿をじっと見つめていた。
「はい、どちらさまですか?」
「夜分遅くすみません、あの、岡本由貴、なんですけど。覚えてますか?」
「由貴くん? ちょっと待ってて、今行くわ」
由貴は玄関の前に立つと、インターフォンを押した。すると、小さな四角い箱から裕斗の母親、紗江子の声が聞こえてきた。由貴は少し強張った声で返事を返した。
しばらくすると、ガチャンと鍵が開けられる音が響いて、ゆっくりと玄関のドアが開いた。長い髪を一つに束ねた紗江子が家の中から出てきた。
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