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「由貴くん、どうしたの?」
「突然すみません、その、裕斗に渡し忘れたものがあって」
「裕斗に?」
不思議そうな表情を浮かべる紗江子に由貴は出来る限り明るく笑いかけて、右手を小枝子に差し出すと、握り締めていた手を開いた。
由貴の手のひらには小さな白猫のキーホルダーがちょこんと乗っていた。
「これ、裕斗にやろうと思ってたんです。祭りの景品で、大したもんじゃないんすけど……裕斗、動物が好きだって言ってたから、喜ぶかと思って」
「そう……わざわざありがとう、裕斗もきっと喜んでるわ」
由貴の言葉を聞いた後、じっとその手のひらにあるちいさなキーホルダーを見つめながら、紗江子は少し声を震わせた。
紗江子は右手を伸ばして、由貴の手のひらからそのキーホルダーを持ち上げると、優しくそっと握り締めた。由貴はその様子をどこか辛そうな表情で見下ろしている。
「裕斗に、渡しておくわ……」
「…………」
眉を下げて笑いかける紗江子から由貴は視線を逸らすと、黙り込んだ。紗江子はそんな由貴の様子に少し不思議そうな表情を浮かべて、声をかけた。
「由貴くん?」
「……紗江子さん」
「何?」
由貴はゆっくりと視線を紗江子に向けると、ぎゅっと目を瞑ってから俯いて口を開いた。
「聞きたいことがあるんですけど……」
「…………」
紗江子は由貴をじっと黙ったまま見つめる。由貴は一度深呼吸をすると、ゆっくりと顔を上げて、紗江子と目を合わせて話し出した。
「……29日、本当に裕斗を見ましたか?」
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