46皿目 賢そうな由貴

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「……何言ってるの?」  由貴の問いに紗江子は一瞬目を見開いた後、すぐに由貴から視線を逸らした。由貴はそんな小枝子の様子を見ながら、話しを続ける。 「29日、本当に裕斗を見たんですか? ちゃんと、答えてください」 「……見たわ。朝、裕斗と一緒に朝食を食べてそれから仕事に行ったの。どうしてそんなこと聞くの?」  紗江子は由貴と視線を合わせると、じっと由貴を見たまま少し早口に由貴の問いに答えた。由貴はその答えに眉を下げて、顔を顰めると少し黙ったあと、ゆっくりと口を開いた。 「俺、今日……東京に帰るつもりで、竜と一緒にバスに乗って駅に行ったんです」 「……………」 「でも、事故か何かで乗るはずだった電車が遅れてて」 「……何が言いたいの」  由貴の話の途中で紗江子がそう呟くと、由貴は視線を下げて話を続けた。 「その駅にあった売店のおばさんにそのこと教えてもらったんです。そしたら、そのおばさんが四日前の28日にも同じことがあって、俺らと同じように困ってる女の人がいたって言ってました」 「……………」 「その人は俺らと同じ時間のバスで駅に来て、茶色い長い髪だったらしいです」 「……………」 「その日はかなり発車時間が延びたみたいで、結局その女の人は駅に車で男の人が迎えにきて……その人が次に駅にやってきたのは、30日の朝」  由貴はそう言い終わると顔を上げて、真っ直ぐ紗江子を見た。紗江子の表情は強張り、キーホルダーを握っていた右手が小さく震えていた。由貴はその様子を見ると、息を吸い込んで、ゆっくりと口を開いた。 「迎えに来た男の人が、その女の人を『さえこ』って呼んでたらしいです……紗江子さん……29日、本当に裕斗を見ましたか?」 「…………」  紗江子は握っていた右手にさらに力を込めると、ごくりと唾を飲み込んだ後、由貴と視線を合わせたまま返事をした。
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