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「……見たわ」
「紗江子さん、本当のこと言って下さい」
「本当のことよ!! いい加減にして! なんなの一体!」
「…………」
由貴の言葉に紗江子は声を荒げてヒステリックな高い声を出した。由貴はその様子に顔を顰めると、唇を震わせた。開いていた右手を握り締める。
「……紗江子さん、裕斗と朝8時に顔を合わせたんですよね」
「ええ、そうよ」
「それって……裕斗は8時に起きてきたってことですか?」
「そ、そうよ……裕斗はいつもその時間に起きてきて、一緒に朝食を」
「紗江子さん」
由貴は視線を下げると、紗江子の言葉を強い口調で遮った。紗江子はその声に口を閉じて、下を向いている由貴を見つめた。由貴は深呼吸をすると、ゆっくりと顔を上げて紗江子を見た。その表情は、悲しみ、困惑、怒り、色々な感情が織り交ざった複雑なものだった。
「もう、嘘言うのやめて下さい」
「嘘なんて……」
「裕斗は、」
「…………」
「毎朝7時に『ふぁみれす』って店の猫にエサをやりに行ってるんです……知りませんでしたか? だから、8時に起きてくるなんてこと絶対にないんです」
由貴の言葉に紗江子は目を見開いて、息を飲んだ。由貴は出来る限り冷静な態度を保ったまま、話を続けた。
「お願いします……本当のこと、教えて下さい」
由貴は紗江子の目を見つめたまま、強い口調でそう言った。紗江子は眉を下げて、顔を顰めると由貴から視線を逸らして俯いて黙り込んでしまった。由貴はそんな紗江子は何も言わず見下ろしていた。しばらくすると、紗江子がぽつり、ぽつりと話し始めた。
「…………本当は」
「…………」
「29日、裕斗に会ってないわ……最後にあの子を見たのは、28日の朝……」
「……なんで、そんな嘘を」
由貴がそう言うと紗江子はゆっくりと顔を上げた。大きな目に涙を浮かばせ、下唇を噛み締めていた。
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