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一台の青い車が『民宿 はまむら』の前に止まった。助手席と後部座席のドアが開き、由貴と竜は車を降りる。
「駐車場に止めてくるから、二人は先に言ってていいよ」
清治は二人にそう言うと、車を発進させて裏にある駐車場へと向かって行った。由貴と竜は広い玄関前に立って青い車が闇の中へと消えていくのを黙ったまま見送ると、由貴が竜に声をかけた。
「行きますかー」
「触んな」
「ひでえ!」
由貴が笑いながら、ポンっと竜の肩を叩くと竜は鬱陶しそうな表情を浮かべて肩に乗ったその手を振り払った。ガーン!と自分で効果音を言いながらショックを表す由貴を竜は呆れたような表情で見た後、振り返って民宿の中へと足を進めていった。
「あ、置いてくなよー」
竜がいなくなったことに気が付くと、由貴は慌ててその後を追った。
扉が開いて、中へと足を進めると前に道に迷って来た時と同じように紺色の半被のようなものを服の上に着ている京一が居た。
「あ、竜さんに由貴さん。お久しぶりです」
「よ、京一!」
由貴は右手をあげて京一に、にんまりと笑いかけると、京一が二人の傍まで駆け寄ってきた。
「祭りの打ち上げですか?」
「そうそう、来てみたはいいもののどこでやってんのかわかんなくてさー」
「宴会場ならその廊下を真っ直ぐ行った一番奥の部屋ですよ」
由貴はあげた右手で首辺りを掻きながら困ったような表情を浮かべると、京一は左手をあげて広い廊下を指差した。
綺麗に掃除された埃一つない木造の廊下が続いている。等間隔に襖が並び、一番奥にある襖の前には沢山の靴が並べられている。
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