47皿目 今夜は無礼講

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「ありがとなー」 「いいですよ。それに今から熱燗を部屋に持っていくところだったんで」  京一はそう言うと、両手で持っていたお盆を少し上げてみせた。そのお盆の上には三本の熱燗が置いてあった。ふわり、と鼻を擽る日本酒の匂いに由貴と竜は少し顔を顰めた。 「じゃあ、一緒に行こうぜ」  由貴は、にんまりと笑いながら京一の肩をポンと叩いて部屋へ足を向けようとしたとき、その隣に立っていた竜が何かを見つけたように視線を他へと向けていた。 「竜、行こうぜ」 「ちょっと用事思い出したから、先行っといて」 「そ? 了解でーす」  竜の言葉に由貴は敬礼をして、笑いながら返事を返すと京一の背中をやんわりと押して祭りの打ち上げが行われている宴会場へと足を進めた。京一は振り返って竜を見た後、すぐに視線を前に戻して熱燗をこぼさないように足を宴会場へと進めた。  玄関前に一人残った竜は由貴と京一の後ろ姿をしばらく見た後、受付のある場所へと向かった。 「……何やってんの」 「何やってるって見てわかんないの……って、竜様!?」  受付のカウンターらしき場所の向こう側で椅子に座ってせっせと伝票を整理している奈緒に竜は頬杖をつきながら声をかけた。  奈緒は宴会場から出てきた酔っ払いが絡んできたのか、と不機嫌そうな声を出していたが、顔を上げてそれが竜だとわかった瞬間、声を上擦らせた。 「そんな驚かなくてもいいんじゃねえの」 「え、あ、ご、ごめんなさい」 「別に謝んなくていいって」  今までそっけなく接してきた竜が嘘のように頬杖をついたまま、少し口元を吊り上げて機嫌よさそうに話しかけてくる様子に奈緒は頬を赤らめた。
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