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「えー、それでですねー。ボクラは明日、この村を出て東京へと帰るんですけどもー」
「えええ!? 竜様帰っちゃうんですか!?」
「ハイハイ、奈緒チャン。個人的なことは後にしてねー」
いつの間にか宴会場に入っていた奈緒が由貴の言葉に大げさに反応したが、由貴はサラリと流した。
「せっかくこの村に来たってことでー、ボクラなりに何かしたいと思いましてー」
「おお、何やってくれるんだー」
「藤嶋くん、歌うたってー」
由貴の言葉にそれまで大人しく聞いていた大人達が面白そうに囃し立て始めた。賑やかな様子に由貴はにんまりと笑うと、口を開いた。
「そうですねー、なんとボクラ……今回の連続神隠しの犯人暴いちゃいます!」
その言葉に会場が一気に静まり返った。酔って顔が赤くなってヘラヘラ笑っていた者も、由貴の言葉に一気に酔いが醒めたように強張った表情を浮かべていた。竜はそんな宴会場の様子をぼんやりと見渡すと、由貴にマイクを持ったままステージから下ろさせた。
「な、にを言っているんだ。お前たちは」
「悪ふざけもいい加減にしろ!」
「由貴くん! なんてことを……」
「ごちゃごちゃうるせーな」
口々に由貴と竜に文句を言い出した大人達を、竜はバッサリと切り捨てた。その中には清治や拓郎、村長などもいた。竜の冷めた声にその場が沈黙に包まれた。
「何をそんなに認めたくねえのかわかんねえけど、そんなに犯人わかんのがこえーのかよ」
「そうそう、『狐様』だかなんだかわかんねーけど、そんなもののせいにして逃げちゃダメだよねえー」
竜の言葉に由貴がにんまりと笑った。その場にいる村の者達は呆然と二人の姿を見上げた後、近くの者と囁き合っていた。
あの事件は狐様の怒りをかったために起こった。村の財産ともいえる子供を殺す人間がいるはずがない。まるで自分たちに言い聞かせるように口々に囁き合っていた。
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