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「カウンターのところで聞いたこと覚えてるか?」
「え? 彼氏がいるかってことですか?」
「ちげえよ」
「冗談です……エプロン、のことですか?」
竜の若干イラついた表情に奈緒はすぐに言い直すと、竜はその問いに頷いた。竜は視線を奈緒から美里へと戻す。美里は片付けなどをしていたからか、服の上からオレンジ色のエプロンをつけていた。
「美里さん、あんた28日、確か白の割烹着を着てたよな?」
「……………」
「なぜか、俺らを家まで乗せていったときにはそのオレンジのエプロンをしてた。なんでわざわざ着替えたんだよ」
「それは……外で着ていたものだから、汚れてるでしょ……」
竜の問いに美里は視線を下に向けたまま、小さな声で初めて答えた。竜はその答えに、ふうん、と興味無さそうに相槌を打った後、口を開いた。
「じゃあ、なんであの日から一度もあの白の割烹着、着てねえんだよ? 洗濯すれば着れるだろ」
「それは……」
「美里さん、正直に言ったほうがいーよ? 着れないんだろ? 洗濯しても落ちないから、卓也の血が」
言葉に詰まった美里に、由貴が真剣な表情を浮かべて真っ直ぐ美里を見て核心を突いた。その言葉に美里は目を見開くと、膝の上で小さく震えていた手を強く握り締めた。省吾はその様子に愕然とし、周りの者たちも囁き始めた。
「裕斗の服を脱がせたことも、同じ理由だろ? 卓也を殺した後、裕斗に手をかけたから、裕斗の着ていた服に卓也の血がべったりついちまった。怪我をしてないのに、服が血だらけ、しかもそれが卓也のとなれば『狐様の神隠し』っていうわけにはいかねえしな」
由貴は今までの明るい声ではなく、聞いたこともないような冷めた声を出して、そう告げると美里は瞼を閉じて、膝の上に置いていた手でオレンジ色のエプロンを強く握り締めた。
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