50皿目 あなたをお見送り隊

2/4
前へ
/248ページ
次へ
 8月2日。 「本当にもう帰るのかい?」 「うん、また遊びに来るからさ! そんな寂しい顔しないでよ、ばあちゃん」  古びたバス停の前。  大きな荷物を肩から下げた由貴と竜が立ち、その前に隆子、清治、そして村の者達が二人を見送りに来ていた。由貴は、にんまりといつもの笑みを浮かべて見送りに来てくれた人達に話しかけ、竜は黒のキャップを深く被って両手をポケットに入れ、ぼんやりと立っていた。 「由貴兄ちゃん、竜兄ちゃん! またぜったい遊びにきてね!」 「おー! 今度はすげえゲーム持ってきてやっからな、一緒にやろうぜ」 「やった! ぜったいだよ! 約束ね!」  子犬のように足元にじゃれついてくる壱也達に由貴は目線をあわせるようにしゃがみ込むと、壱也、隆史、紀美子、亜矢の順に頭をわしゃわしゃと撫でた。何も知らない子供たちは無邪気な笑みを浮かべていた。 「竜様、昨日は……ごめんなさい」 「謝る必要ねえだろ」  奈緒は両手を胸元辺りに握って、潤ませた目で気だるそうに立っている竜を見上げた。竜は面倒くさそうな表情を浮かべて、返事を返すと奈緒は、涙を一筋零した。 「あたし! 竜様と離れ離れになるの嫌です! 行かないでください! 遠距離恋愛なんて、そんなの辛すぎます! 運命の女と離れ離れなんて……竜様は悲しくないんですか!」 「…………」  昨日のことがありながらも全く変わらない様子の奈緒に竜は呆れを通り越して、少し感心していた。両手で顔を隠して泣き出した奈緒に竜は、心底面倒くさそうに溜息をつくと自分の被っていた黒のキャップを外して、奈緒の頭にかぶせた。 「それやるから、諦めて」 「え?」  奈緒が泣くのをやめて、顔をあげると、竜は少し口元を吊り上げた。 「運命の女、お前じゃねえから」 「そ、そんなあー……」  竜の言葉に奈緒は頭に置かれた黒のキャップを手に持って握り締めると、竜様のバカーと叫びながら走り去っていった。竜はその後ろ姿をぼんやり眺めて奈緒の大きすぎるリアクションに少し笑うと、キャップを被っていたせいでペタンとなっている髪を右手でかき混ぜた。
/248ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4384人が本棚に入れています
本棚に追加