50皿目 あなたをお見送り隊

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「藤嶋くん! 僕の養子にならないかい!?」 「……は?」  突然の申し出に竜は眉を顰めて、困惑した表情を浮かべた。なぜか生き生きとした瞳の清治。その後ろで、やれやれといったような表情を浮かべている見送りの者たち。先にバスに乗り込んで、窓から身を乗り出して面白そうにその光景を見ている由貴。 「い、いや、遠慮しときます」 「やっぱり養子じゃ駄目だよね……でも、僕らが一緒になるには、この道しかないんだ」  竜はその言葉で清治が自分へ向けてくる熱い視線の意味に気が付くと、勢いよく握られた手を振り払った。その表情はいつも飄々としている竜からは考えつかないほどに、焦りが見えていた。由貴はニヤニヤと面白そうにそんな竜の様子を見ている。 「藤嶋くん……いや、竜くん……僕とこの村で生きていかないか! 君は僕の理想なんだ!」 「いや、マジで、勘弁シテクダサイ」  盛り上がりに盛り上がっている清治に竜は表情を強張らせて、片言で返事を返すと急いでバスに乗り込んだ。 「ああ、竜くん!!」 「ははは、だから気をつけろって言っただろー」 「わかりにくいんだよ!!」  竜へと手を伸ばす清治。それを見てケラケラと笑う壱也の父、拓郎。  竜は乱暴に大きな鞄をバスのシートに置くと、送っている人たちがいる側とは反対のシートに腰を下ろした。明らかに不機嫌オーラ全開の竜を由貴は振り返って見て笑った後、視線を外へと戻して見送ってくれている村の人たちに手を振った。  バスのドアが閉まる音が響く。  バスはゆっくりと大きな車体を前へと進ませた。 「じゃあな! 気をつけて帰れよ」 「由貴兄ちゃーん! またねー!」 「身体に気をつけるんだよー」 「またなー! みんなも元気でな!」  由貴は窓から身を乗り出して、見えなくなるまで手を振っていた。 『ありがとう』 「……ん? 竜なんか言った?」  由貴は何か幼い子供の声が聞こえたような気がして、竜を振り返って声をかけた。 「なんも言ってねえよ」 「そ? 気のせい、かねー……」  由貴はシートに深く腰をかけると、ぼんやりと外を見た。  空は青々と雲一つない快晴。目の前にはただ太陽の光を浴びて輝く緑が広がっていた。 「あ、登校日サボっちゃった……」
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