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「やー、楽チン楽チン! ほら、とっとと足を動かしなさいよ!」
「てめえ、ほんと落とすぞ」
結局、二人乗りをして家を出発した二人は、ジャンケンで負けた竜が前で自転車をこぎ、由貴が後ろで竜の肩に手を置いて足を引っ掛けて立っていた。
後で帰れなくなっては困るため、曲がり道を曲がらずにまっすぐに家から続く道を走る。
右側には木が鬱蒼と生い茂り、左側には田園が広がっている。都会では絶対に見られない風景に二人はしばらく何も言わずに、風景を眺めていた。
「あれ……なあ、竜。そこ、なんか鳥居みたいなの見えねえ?」
「鳥居?」
由貴は竜の肩から右手を離すと、見つけたものを指差した。
そこには、周りの草木に隠れて、ひっそりと佇む鳥居があった。竜がその近くで自転車を止めると、由貴は軽い動作で自転車から降りた。
「神社でもあんのか?」
「だろうな」
二人はその鳥居の前でじっとその鳥居の向こう側を見つめていた。
鳥居の向こうは、石畳が続き、その先に何か古い建物があるのが見えた。
しかし、その周辺は生い茂った草木で覆われおり、太陽の光が入らないために薄暗く、はっきりとは見えなかった。
黙りこんだ二人の耳に蝉の鳴き声が響く。
ザワザワ、と木の葉が風で揺れる。
「なんか……ちょっと寒くねえ?」
「……気のせいだろ」
由貴が少し顔を引きつらせながら笑って竜を見ると、竜は少し遅れて返事を返してた。
二人の間になんとも言えない空気が漂っている。
木々に覆われた場所は薄暗く、鳥居と向かい合う二人はどこか別の世界に取り残されたようであった。
「なあ、引きかえさ――」
ガサガサ……―-
「!!」
由貴が竜のほうを振り返って、この道を引きかえすことを提案しようとしたとき、由貴の後ろ、つまり、鳥居の向こうから何かが動く音が二人の耳に飛び込んできた。
由貴と竜はその音に固まったまま、ガサガサとこちらへ近づいてくるように次第に大きくなっていく音と揺れる葉をじっと見つめていた。
二人の間に緊張が走る。
二人は同時にごくり、と唾を飲み込んだ。
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