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「あの、すんません。『狐様』ってなんすか?」
「え? ああ……狐様ってのはな、この村にある稲荷神社の霊獣様のことだよ。この村は稲荷信仰でね」
「そうなんすか……」
わかったような神妙な顔をしているが恐らくあまり理解できていない由貴は、その男の言葉に頷いていた。その由貴の隣で話を聞いていた竜が口を開いた。
「攫われるってのはどういうことなんですか?」
「ああ、それはね。昔から言われてることなんだけど、あの神社で狐様の機嫌を損ねたら攫われるって話があるんだよ。機嫌を損ねるっていうのは、何か壊してしまったり悪戯をしたりしたらってことでね……去年のこの時期にもあの神社で遊んで鳥居に傷をつけた子どもが二人神隠しにあって……ほら、あそこにいる浜村さんの末の息子さんなんだけどね」
気の毒に、と眉を下げて語る男の指差した方を由貴と竜が見ると、壱也達を少し悲しそうな顔で眺めている一人の男、浜村省吾が立っていた。
「神隠し、ねえ……」
竜は村に伝わる狐様の話にどこか呆れたような顔をしていた。現実的な考えの持ち主の竜は怪奇現象のような非科学的なことを信じていなかった。
そんな竜とは対照的に少し気味悪そうに顔をしかめている由貴は、その男に再び話をふった。
「……で、その二人の子どもは見つかったんすか?」
「残念ながら、いなくなった三日後に遺体で発見されたよ。あ、ちょっと呼ばれてるから」
ごめんな、と言って二人の元を去っていく男の背中を由貴と竜は見た後、視線を壱也達に戻した。
すると、そのとき丁度由貴達の方を見ていた拓郎と目が合った。
拓郎は由貴と竜を見た後、壱也に視線を移した。
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