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「えー、もうおしまいなのー?」
「由貴兄ちゃんもっとあそぼうよ!」
「ちょっと待ってな、竜も誘ってあげねえと拗ねちゃうからさ」
「誰が拗ねるかよ」
竜は由貴の言葉に眉をひそめる。由貴は鋭い視線を向けてくる竜に、にんまりと満面の笑みを浮かべて額に張り付く前髪を手で払った。
「なあ、竜も遊ぼうぜ」
「いいっつってんだろ」
「意地はんなって」
「はってねえし、とっととガキ共んとこ戻れよ」
竜は心底めんどくさそうな顔をして、まるで野良犬を追い払うかのように手を振った。
由貴は竜の態度に、ケチーと口を尖らせると、また竜に背を向けて子ども達の方を向いて、蛇口に手を添えた。
竜は由貴の諦めた様子にやれやれと視線を下にずらした。その瞬間……――
バシャアアア!!
「!!」
竜が由貴から視線をずらした瞬間、由貴は竜に見えないようににんまりと口に弧を描いて笑うと、すばやく蛇口をひねって振り返り、竜にホースの口を向けた。
至近距離でホースを向けられたため、勢いよく噴出した水を頭から被り、竜はずぶ濡れになってしまった。
あちこちに跳ねていた髪は水の重さで顔や首にはりつき、ジーンズまで色を変えている。
「…………」
「油断大敵! みなの者ー! 勇敢な勇者由貴はドラゴンを討ち取ったぞー!」
「おー!!」
由貴はホースを持った手を高く掲げると、子ども達に向かって高らかに声をあげた。一瞬きょとんとしていた子ども達も、すぐに笑ってはしゃぎ始めた。
由貴は子ども達のところに戻ると、少ししゃがんで子ども達とハイタッチをして、はしゃいでいた。
後ろから来る不穏な影にも気づかずに。
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