9皿目 壁に耳あり

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「由貴兄ちゃん、竜兄ちゃん、またねー!」 「ばいばーい!」 「おー、ありがとな。気をつけて帰れよー」  いつの間にか太陽は下がり、辺りはオレンジ色に染められていた。広場から岡本の家までの帰り方がわからない由貴と竜は壱也達に道案内をしてもらった。  裕斗を交えて遊んでから、壱也達も初めて遊ぶ裕斗に戸惑っていたが、由貴の仲介もあり、すぐに仲よくなっていた。  由貴と竜は、裕斗と壱也達の元気に駆けて行く後ろ姿を家の前で見送る。 「家入るか」 「そうだな」  二人は踵を返し、玄関へと向かっていった。玄関を開けると、ふわりと食欲をそそるいい匂いが漂ってきた。水気を含んだ靴を脱いで、玄関に上がる。  すると、廊下の奥から玄関の物音に気付いた清治が出てきた。清治はずぶ濡れの二人を見て、目を見開くと慌てたように駆け寄る。 「二人ともその格好どうしたの!?」 「あー……子ども達と水遊びしてて」  由貴の返事に清治は呆れたような顔をした。それから、由貴と竜は、清治が洗面所から持ってきたタオルで玄関の前で身体や髪を拭いた。 「うわー、これ高かったんだけどなー……ショック」 「自業自得だろ」  泥だらけになったジーンズの裾を由貴は床につかないように折り曲げながら、眉を下げて呟いた。すでに赤いティーシャツは脱いで肩にかけている。  竜はそんな由貴を呆れたように見ながら、水分を含んで重くなったチェックの半袖シャツを脱いで、右手に持つと、シャツの下に着ていた白いティーシャツまで濡れているのに眉をひそめつつ、脱ぎ始めた。  その拍子にボタボタと水滴が床に落ちる。
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