9皿目 壁に耳あり

5/6

4382人が本棚に入れています
本棚に追加
/248ページ
 由貴は隆子の言葉に目を見開いた。隆子はにこにこと笑い、清治は視線を下げて先ほどとは違った少し強張った顔をしていた。  隆子は由貴から視線を外すと、急に表情を変えて忌々しげに眉をひそめた。 「おばあちゃんね、由貴はここにいたほうがいいと思うの。向こうも楽しいかもしれないけど、あの女のとこだときっと満足な生活もできないでしょう?」 「あの女って……」 「18の栄治をそそのかして……きっと栄治も由貴を連れてこっちに帰ってきたかったはずなのよ。ねえ、由貴。ここはいい場所でしょう? 自然も沢山あるし、きっと由貴ならすぐに友達もできるわ。藤嶋君も向こうには由貴以外に仲がいい人いるんでしょ?」 「…………」  由貴は隆子の言葉に俯いて唇を噛み締めると、膝に置いていた手をぎゅうっと握り締めた。  隆子はそんな由貴の様子を見て、ゆっくりと由貴の側まで来ると、そっとその手に自分の手を重ねた。 「ねえ、由貴? おばあちゃんと一緒に暮らそう? おばあちゃんね、栄治がいなくなってから、寂しくて寂しくて……由貴が居てくれたらそんな寂しさも感じなくなるわ。ね?」 「ばあちゃん……」 「すんません、ちょっといいですか?」 「…りゅ、竜!?」  由貴が話そうとしたとき、竜が突然襖を開けた。突然のことに由貴、隆子、清治の三人は黙り込んで、廊下に立っている竜を見ていた。  竜は右手に持っていた携帯を掲げた。
/248ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4382人が本棚に入れています
本棚に追加